日本ではじめて『人々のために』土木の仕事をしたのは「お坊さん」
皆さん、日本で初めて『人々のために』土木の仕事をしたのは誰かご存知でしょうか。
「土木の仕事」とは、人が住んでいる土地や生活の場のまわりを住みやすく、なおしたり、つくったりする仕事です。
「土木」は、昔「普請(ふしん)」と言われていました。
「普請」には以下のような意味があります。
「普請」は仏教用語というのがポイントです。そうです、日本で初めて『人々のために』土木の仕事をしたのは「お坊さん」です。
「暮らしをまもり工事を行なったお坊さんたち」(作:かこさとし、株式会社 瑞雲社)より、一部エピソードをご紹介します。
大化の改心(645年)後の日本では、国の仕組みが大きく変わり、規則や制度がととのい、国の中央に大きな力が集まるようになりました。
そのため、宮殿や寺院はますます立派になりましたが、人々の暮らしはそのための税負担などで逆に苦しくなっていきました。
このような中、都の寺で、国がいつまでも安らかで災いがおこならいお経を読み、祈るお坊さんたは特別な手当が与えられていました。けれども仏教は、もともと悪いことをせず良い行いをして心を清めていくという釈迦の教えがもとになっているものです。
したがって寺にこもっているだけでなく、寺の外で貧乏や病気で困っている人を助けようと考える僧があらわれてきました。
当時、奈良、飛鳥から日本海の方へ行くには、宇治川の急流を渡らなければなりませんでした。そこには小さな仮の橋しかなかったので、流れが激しい時は橋が使えず、川に入って渡ろうとして人や馬が流されたり、とても困っていたのです。
そこで、大化2年(646年)、奈良元興寺の僧・道登(どうとう)は、人々に仏の道を説き、困難を除くために木材を買い求め、力を集めて、宇治川に初めてしっかりとした橋をかけました。
このように、日本の初期の土木工事を中心となって行なったのはお坊さんでした。
道登の後にも、道昭、行基、良弁、重源、空海、空也、一遍、叡尊、忍性などの坊さんが、人々のために土木や建設の工事を行いました。
彼らを突き動かしたのは、「農民や位の低い人々の苦しみを減らしたい、暮らしを守ってあげたい」という願いでした。
現代の土木技術者も、「人々の暮らしを良くしたい、人々の安全安心な生活を守っていきたい」という思いを忘れてはいけないと思います。
現代は、昔に比べ相対的に暮らしは豊かになっていますが、日本でも田舎に行けば、道路がなく一度災害が起きると孤立してしまう地域や、土地が低いために豪雨などが発生すると洪水被害を受けやすい地域などがまだまだたくさんあります。気候変動に伴い、今後、災害はますます激甚化することが予想されています。南海トラフや首都直下型地震が30年以内に起こる確率は70%を超えています。加えて、高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化対策も待ったなしです。
インフラはもう十分整備されたという論調もありますが、それは、大局的に物事が見えていない考え方だと思います。
「土木の仕事」は今後ますます重要になってくると思いますので、お坊さんたちが行なったように、「弱者に寄り添った土木」という理念を忘れずに、我々土木技術者は土木の仕事に従事していきたいと思います。